あの日はそう、晴れた夜でございました。 「皆で呑んでるからお前も来いよ」と檜佐木修兵さんに言われまして。 そうそう、それであの日は昼間から凄い快晴で夜になっても一面星空、とまではいかないけど澄んだ空で。 「先輩、満月綺麗に出てますよ!」って立ち止まって裾を引っ張って報告して、「へー、確かに綺麗だな」って返して貰ったまではよかった、はず。 あ、まだもうちょっとよかった。 「明日も晴れですかねー?ね、先輩はどっちだと思います?」 うん、この台詞まではよかった。 正直私の心臓はこの段階で早鐘早鐘! だって知ってるでしょ!?私が先輩好きだって! もうこの状況が夢みたいだったわ。 というか今思ったけど、なんで先輩が呼びに来たのよ。 アンタも呑んでたならアンタが呼びに来てくれればいいじゃん! そしたらこんな事にならずに済んだのに。 そうだ、アンタのせいだ。 「なんでだよ」 恋次は一連の話を黙って聞いていたが流石にその言葉にはツッコんだ。 「はぁ。誰かの能力がタイムマシンみたいなので過去に戻れたらいいのに」 「なんだ、檜佐木さんにキスでもされたんか?」 「ぎゃ!なんでアンタはそんな直球なのよ!乙女心を知れ!悟れ!」 「・・・・・ホント、お前って嘘とか隠し事に向かないよな、恋愛面で」 「そんな面構えして『恋愛』という単語を発するな。失礼だろ、世の恋愛に」 「阿呆くさ」 付き合ってられるか、と言わんばかりの態度で恋次が立ち上がったのでは慌ててその死覇装を掴んだ。 「待って待って待ってって!同期のよしみじゃん、助けてよ!」 「めんどい」 「たいやきトラウマになるまで食べさせてあげるからお願い!」 「・・・・・っち。仕方ねぇな」 だから。 先に言われたけど、うん、まぁ、そうなのよ。 キスされたのよ、その後に! あの檜佐木修兵先輩に! なんで!?ねぇなんでだと思う!? やたらと慣れた感じだったけどやっぱり噂通り先輩って遊び人なの!? じゃああのチューって気まぐれだよね・・・・・。 いや、本気とかは全然それこそこれっぽっちも思ってませんし思えませんし思いたくないわ。 でもさー、遊びでも一瞬ドキっとするというか。 ・・・・・一瞬じゃないな。ずっとだな。 しかも「遊びでもいいかも」とか思っちゃった私は尻軽なのかな。 それはそれでいいんだけど、その後さ、なんと言いますか。 こう、驚くじゃん。 その感情は普通でしょ!? で、つい。 その、ね。 「ぶん殴ったのか?」 「・・・・・もうアレね。アンタにイチイチ説明しなくていいのは良い事だと思うようにするわ」 「うわ、マジで!?」 「しかもグーよ、グーで右頬ストレート。・・・・あー、今からでも遅くない。星になりたい」 一旦恋次はから目線を外し一人頷き納得する。 「だから檜佐木さんの右頬に湿布貼ってあったんだな」 「え!湿布!?」 「知らねぇのか?・・・・・・お前、まさか」 「多分、予想通りで間違い無いと思う」 「あれから五日だぞ!」 「知ってる」 そう言って体育座りになり膝に額を押し付けて小さくなったを恋次はジト目で見ていた。 「よく避けれるな、そんなに」 「もしさ、恋次が先輩の立場だとして」 「俺はいきなりそんな事しねぇよ」 「例えばだよ、馬鹿!それぐらい受け止めろ!」 は顔を上げて眉を顰める。 「馬鹿って言うな」 「で、もし先輩の立場だとして。先輩は私が好きな事知らないワケじゃん。言うなら後輩に殴られたワケで」 「まぁ、キレるわな、当然」 「・・・・だよね」 または膝に額を押し付けた。 「朽木隊長の権限でなんとか出来無いものかしら、副隊長さん」 「無理」 「あーあ、昔の阿散井恋次なら助けてくれたのに」 「助けねぇよ」 やっぱり冷静に考えて悪いのは恋次だよね。 あー、イヅルでもいいや。 イヅルでいいよ、もう! とりあえず先輩以外の人が私を誘いに来ればよかったんじゃん! 畜生、イヅルのヤツ! 今日の夜中にでも前髪断髪してやろうか。 てかさ。 逃げれば逃げる程、避ければ避ける程益々日に日に檜佐木先輩に会いづらい・・・・。 今は用事で九番隊行く時は他の子とか恋次に頼んでるけどそれもいつまで出来ることか。 あぁ。 気が重い。 始解した侘助と対戦したようだ。 ・・・・・・・あー、今凄いイヅルが憎い。 「・・・・俺はいつまでお前のその愚痴愚痴に付き合わされるんだ」 「そうね、もういいかもね。イヅルのせいで落ち着いたし。結局は私の問題だし」 「だったらそこ代わってくれよ」 背後の声に二人はぎょっとし、恋次だけが振り返った。 「阿散井はもういいんだろ?」 「み、たいです」 答えると恋次は立ち上がり入れ替わりに檜佐木がの横に座った。 「・・・・なんで離れるんだよ」 コソコソと少しずつ身体を離しているに気付き檜佐木はその腕を掴む。 そこでようやくは檜佐木を五日振りに見る。 特に右頬を。 そして不機嫌そうなその顔を。 「あ、あの、すすすみませんでした・・・・!」 は捉まれた腕を振り解いて頭を下げる。 「お怒りはご尤もです!」 一向に頭を上げないを見下ろして檜佐木は頬を掻く。 「どっちかつーと、謝るのは俺だろ」 「いえ!いいえ!先輩が女の子好きなのは噂で聞いてますし、私がキス如きでうろたえたのが悪いんです!」 檜佐木は溜息を吐いた。 それがわかったは下を向いたまま目をきつく閉じる。 「、顔上げろ」 にとっては死の宣告のようなその言葉。 「・・・・ハイ」 見えた檜佐木は頭を掻いている。 「あー、そのなんだ。あん時は確かにノリっぽい部分もあったけどお前の事遊びだとか思ってないぞ」 「・・・・は?」 「だから、俺はお前が好きだって言ってんだよ」 「嘘だぁ。先輩みたいなかっこいい人が私みたいなの好きになるはずない」 「本当だって」 檜佐木はの頬に手を当てキスをする。 「ほら。これで信じただろ?」 「・・・・なっ!慣れ過ぎてて逆に無理!」 は檜佐木を突き飛ばした。
09-06.2006 |