風に乗せられて。 すれ違う度。 ハボックの吸う煙草はどこにでも売っている銘柄で。 軍部内でも同じ香りがする。 「・・・・情けないな」 そう呟くのは既に振り返った後。 見知らぬ背中。 仕事に追い詰められている今、無償に焦がれるこの想いを持て余す。 物凄く馬鹿な考えだと思ったが、一度同じ煙草を吸った事があった。 吸い終った後、指に残る同じ匂い。 眩暈がしそうな程懐かしくなりすぎたのでたった一本で止めてしまった。 は椅子に座る前に熱いコーヒーを作りに給湯室へと足を向ける。 そのドアを開けた瞬間、勢いよく背中を押され驚く前に嗅覚が反応した。 「ハ、ボッ」 「俺らも大概仕事に真面目だよな」 後ろから抱きしめられているがその表情は想像出来た。 「久しぶりの会話なのに、目も合わせてくれないの?」 「合わせると歯止めが利かないぐらい今切羽詰ってるからな、これで我慢する」 「精々大佐のご機嫌取って早く仕事終わらせてよね」 「こんな所見つかったらまたしばらくお預け食うだろうな」 「笑い事じゃないわよ」 体重を少し後ろに乗せては笑った。 ゆっくりとしたハボックの呼吸を首で感じる。 「・・・・」 「なに?」 「好きだ」 「私もよ」 耳に言葉だけを残してハボックは部屋を後にした。
06-04.2007 |