カチンカチン、とジッポライターが何度も何度も開閉する。


「先輩」

が小声で前に居るレノの背中を突付くが無視。

レノはただ煙草を咥えてある一点だけを見ている。

穴が開いてもおかしくない程真剣に。

煙草を咥えたままなのはここが路地で暗いからだ。

監視中に火種が目立つわけにはいかない。

しかしもうこの状態が半日近くになろうとしている。

限界なのだろう。

少し前からジッポを開閉している。

きっと無意識で。


「レノ先輩!」

は少し強めにレノのスーツの裾を引っ張った。

「んー?」

視線は微動だにせずレノはふぬけた声を出す。

「音、目立ちますよ」

「ヘーキだぞ、と」

「だから少しの間ぐらいだったら私一人でも監視出来ますから煙草吸ってきてくださいよ」

「別に煙草が吸いたいんじゃねーぞ、と」


にはレノが理解出来無い。

もう人種として自分と違う生き物のように。

その鋭さに時に怯え時に敬愛し時に絶望する。


「あ」

そう言うとレノは煙草を地面に落とし素早くを壁に押し付ける。

一瞬何がどうなったか分からなかったが監視していた人物が建物から出て車に乗りこちらに向かって発進してきたのが見えて納得。

ここはスラムなので下手に隠れたりするよりも「それらしく」見せた方がよっぽどナチュラルな背景になる。

車のライトが二人を僅かに照らし近づいてくる。

今まで暗くてよく見えなかったがはてっきりレノは車を横目で見ていると思っていたがそれは違った。

読み取れない表情。

レノはを見ている。

目が合うのと同時に車が前を通る。

はつい車を見るが次の瞬間にはレノの手に目を塞がれ唇も塞がれた。


Good-bye、後輩








18-06.2006