今思えば不可解な事が多い。 それは今思えばであって、言ってしまえば私は浮かれていた。 舞い上がっていたのだ、完全に。 神羅ビルから少し離れた位置で経営している喫茶店。 アルコールも置いてあるのでよく社員がブラリと立ち寄る。 ツォンもその一人。 けれど誰かと来た事は無く、個人と会話もした事が無い。 しかしタークスのレノとルード(正確にはレノが一方的に)がよく話題にしていたので名前は知っていた。 はこの二人とは話す機会も多く、いい常連客の二人だ。 ツォンは毎回律儀に注文する。 レノなど「、いつもの」なのに。 大半は書類に目を通し仕事をしているがたまに雑誌を読んでいる。 会計はいつもピッタリの金額をテーブルに置き、席を離れたテーブルも綺麗な状態で帰って行く。 レノなど先日派手に飲み物を零し「あちゃー」などと言っていた。 「あの上司を見習いなさいよ」と思わず言ってしまう程。 そんなある日。 ツォンが帰ったのでがカップを下げに行くと椅子に封筒が置いてあった。 忘れ物だろう。 とりあえず、申し訳ないと思いながらも中身を確認すると書類がいい具合の分厚さで納まっている。 毎日来るなら明日渡せばよいかもしれないがツォンは不定期な客の一人。 それにもしかしたら今日必要かもしれないと思いマスターに事情を話し店を出た。 神羅ビルは通りこそするものの入った事は無い。 出入りするのはビシ、っとスーツ姿の人間ばかり。 思わずは自分の姿を確認する。 制服など無いので完全にラフな私服。 かなりの勇気を必要としたがはなんとかビルに足を踏み入れた。 思っていたよりすんなりと受付で交渉が出来、なんとツォンがの元まで降りて来る事になった。 「お忙しいのにワザワザすみません」 封筒を差し出しは頭を下げた。 「私こそお手数をお掛けして申し訳ない」 ツォンは封筒を受け取り微笑む。 「あの頃は紳士的だったのにな」 「なにがだ?」 「でもツォンさんが書類忘れるなんてヘマするはず無いからやっぱり紳士じゃないか」 「またその話か」 「まんまと騙された感じ」 「あの頃はどうしたらを手に入れられるか毎日必死だったな」 「嘘ばっかり」 「嘘かどうかはこれから知ればいい事だ」
26-06.2006 |