嫌な時期が来たぞ、と。 上司から無言で突き出されたネクタイを指でつまみあげ、レノは下からそれを見る。 「おい、俺一人で結べないぞ」 しかし誰も返事をしない。 各々新人歓迎準備の為仕事をしているからだ。 「ったく、社長も何考えてんだか」 とりあえずネクタイを首にかけ、レノは部屋を出た。 ロビーまで降りる間に嫌でも目に付く華やかな雰囲気。 自分とは無縁な雰囲気。 神羅カンパニーと言えど会社である以上は新入社員を募集する。 本日がその日。 「ホント、ナニ考えてるんだあのボンボンは」 タークスなんて、間違っても祝って入る部署ではない。 エレベーターで一階まで降りると入れ違いにレノは女とすれ違った。 「・・・・あの」 ただそれだけの筈なのに、レノは引っ張られるように振りかえる。 「落ちてますよ」 黒いスーツの女はエレベーターの中から腕だけ出しネクタイを差し出す。 レノは自分の身体に視線を落とし、首にかけていたハズのネクタイを探すが無い。 それは女が持っている。 「ゴミ箱にでも捨てといて」 息苦しいからネクタイは嫌いだ。 行事も嫌いだ。 決められた物が嫌いだ。 「そんな事出来ません」 女は何を思ったのかエレベーターから降りレノの首にネクタイを巻く。 「これぐらい緩くすれば、苦しくないし落とさないですよ」 ネクタイを外す直前の様に緩く結ばれたソレ。 「ー、早く早く」 同僚が開ボタンを押したまま催促をしたので女はエレベーターへと戻って行く。 今まで周りの人間は「キチンと結ぶ」か「何も付けない」しか許さなかった。 「酔っ払いみたいだぞ、と」 そのだらしないネクタイをレノは一日中首から下げていた。
28-01.2007 |