バイト帰りにいつも通る道で強盗事件があったり変質者が出たりする事が増えていたのは知っている。


けれど特に警戒する事も畏怖する事もなく、いつも通りその道を歩いていたら急に肩を軽く叩かれた。



反射的に振り返ると背の高い男の姿が見え、これまた反射的に持っていた革の通学鞄でその男の顔目掛けて殴りつけた。



「あっぶなー」

ひょい、とあっさりかわしたものの、鞄のストラップが男の眼鏡に当たりかしゃんと地面に落ちる音。

「あ、イヤホンしてたんか。どーりで呼んでも反応無い筈やな」

男はホレ、落としモン、と携帯を差し出す。それは確かにの携帯。

「すまんすまん、驚かすつもりはなかったんやけど、全然止まらへんから」

そう言えば、「今から帰る」と母親に電話してコートのポケットに入れてすぐに音楽聴いて。落としてたのか、とが気付くタイミングで今吉は地面に落ちていた眼鏡を拾ってかけた。




この顔をは知っている。




「・・・・・・花宮の、先輩?」



花宮の先輩=自分の先輩でもあるのだが、直接話をした事はなく。

「確かにワシは花宮の先輩やけど。ほな自分、ワシの後輩?」

「あ、多分、そうです。花宮の同級生なので」

答えながらは必死で中学時代、花宮と会話した記憶を掘り起こしていた。

(なんだっけ、この人の名前。アイツなんて言ってたっけ。えーと。えーと。)





校舎。

下駄箱。

制服。

花宮。



挨拶。


途切れ途切れ、部分部分思い出す。


そうだ、朝、花宮と下駄箱で会って。



「ねぇ、さっき話してたのって、誰?」

花宮が嫌がらず面倒臭がらず悪態もつかず会話していた姿があまりにも珍しくては問いかけた。

「あー。あれは打算的で腹黒いバスケ部の先輩で・・・・」





「人の嫌がる事させたら天才の今吉先輩」







15-02.2014
卒業以来