「なぁ、このマテリア何系?」

書類を整理していたはその問に顔を上げズレた眼鏡を正した。


「え、今なんて言った?」

「だから、このマテリアって何系?」


手の平に乗るそれはまさしくマテリア。

だかそれよりもの興味を引いたのは


「発音、変じゃない?」


ザックスのマテリアの発音だった。

「どこがだよ」

「マテリアの発音。アクセントは『マ』テリアよ」

「マ『テ』リアだろ?」

怪訝な顔で再び発音するザックスをはしばらく見ていた。

「な、なんだよ。じっと見て」

「・・・・・・ザックスって、ゴンガガ出身だっけ?」

「あぁ」

「ゴンガガって、田舎よね。だから発音が違うのかしら・・・・」

そう悩むの顔は真剣そのもので、それが余計にザックスの精神を刺激した。

「俺が田舎者って言いたいのかよ!」

「平たく言えばそうね。というか、ゴンガガって辺境のしかも町じゃなくて村でしょ?」

「うわ、あっ、たまきた!」

ザックスにとっては最早マテリアの属性よりもプライドを馬鹿にされた方が重要視されていた。

「別に馬鹿にしてるとかじゃないわよ?寧ろ新しい事実がわかって感謝してるわよ」

「まだ馬鹿にされた方がマシだ!畜生、都会出身だからって調子乗るんじゃねー!」

その言葉に今度はが噛み付いた。

「私がいつ調子に乗ったのよ!」

バン、と書類の上から机を叩き勢い良く立ち上がった。

その拍子にルーファウスに提出する書類が折れ曲がったがそんな事気にしている場合ではない。

「他の人にも聞いてみなさいよ!ザックスの発音が違うんだから!」

「あぁ、聞いてやるよ!」

からそっぽを向くように右を向けばザックスの視界にセフィロスが居た。

「セフィロス!」

名前を呼ばれ振り返ったセフィロスに向かってザックスは駆け出した。

そんな後ろ姿を腕を組んでは傍観する。

身振り手振りで何やら説明しているザックスと微動だにしないままそれを聞いているセフィロス。

距離が少しある為、に会話の流れは何一つ伝わらない。

しかし、ザックスの話が終わったのだろう、セフィロスがそのまま先程の方向に向かって歩き出した。


「お前らなんか大っ嫌いだー!」


その場で地団駄を踏みながら絶叫するザックスを横目には勝ち誇ったように密かにほくそえんだ。



fighting の日々










たった一つの液体を飲むだけなのにその飲み方は多種様々だった。


ケース:1

ボタンを押し、ガタン、と商品が落ちる。

必要以上に冷たい缶を手に取り少し長い爪で飲み口を弾いた。

これから膨大な書類に目を通す為気合を入れなければならない。

様々な部署からの情報を綺麗に整理し、かつ見やすくシンプルに無駄なく整理するのがの仕事である。

最終的にそれらは上層部へと送られ会議等に使われる。

一度のミスで首が飛ぶ覚悟が常にいる。

一気に飲み干し、自販機の横に常備されているゴミ箱へと缶を捨てた。



ケース:2 ザックス

ボタンを押し、ガタン、と商品が落ちる。

別に毎日飲まなければならない中毒者ではないが、たまに物凄く飲みたくなる。

その時は大抵大きな仕事明けで疲れている事が多いのできっと今も疲れているのだろう。

沈殿物が無いにも関わらず缶を振ってしまう。

半分程飲むと、その味に飽き自分と同じ様に自販機で飲み物を買おうとしていたクラウドに缶を押し付けその場を後にした。



「きったない字・・・・・」

は走り書きのメモを手に取りなんの躊躇もなく握りつぶした。

『ほーこくしょ』 と太マジックで書かれたその下に一応はまとめてある報告書があった。

椅子に座りパラパラと中を確認する。

「誤字が多い」

赤ペンで採点して突っ返してやりたくなるぐらいの誤字が目立った。

「学校が無いとこう育つのね」

「どういう意味だよ」

「あら、お馬鹿さん、ごきげんよう」

は身体をそのままに首を後ろに折り、後ろで腕を組んでいるザックスを確認する。

「ったく。田舎者扱いの次は馬鹿扱いかよ」

「今日日、5歳の子でもこんな変換ミスしないわよ」

「仕方ないだろ、俺は元々手書き派なんだよ。それをお前が汚いって言うから慣れないパソコン使って書いてるってのに」

「その努力は買うわ。でも結果でも示して欲しい、と要求させて。と、言う訳でザックス添削料としてコーヒー入れて来て」

「はぁ?」

いい加減首が疲れたのでは姿勢を正す。

「ただでさえ神経使う仕事なのにザックスの誤字のせいで無駄な労力も使うの。わかる?」

「ヘイヘイ。入れればいいんだろ、入れれば」

振り返りすらせずに淡々と言うに少し腹こそ立つものの「じゃぁやらない」と言われたくは無いのでザックスは仕方なく給湯室へと向かった。

少しの間静かになった部屋では先に蛍光ペンを取り出し誤字にラインを引く。

正しい字に直すのは打ち込む時に直すので今は何もしない。

とりあえず整理する際に見落とさないように印があれば充分だ。

作業が半分程まで進むとザックスが湯気の立ったマグカップを持って戻ってきた。

「ん」

のデスクに置き、自分はそのまま隣に座る。

「ありがと」

作業の手を止めずには空いている手でマグカップを取り熱さに気をつけながら啜った。

「ぶ!」

「うわ、きったね!」

目の前に書類があるにも関わらずはコーヒーを吐いた。

お陰で白い紙にくすんだ水玉模様が生まれる。

「な、何これ!」

ここでようやくはマグカップの中身を見た。

想像ではそこには黒い液体が美味しそうな白い淡い湯気を立てて存在してるはずだった。

けれど現実は黒い液体ではなく茶色に変色し白い湯気からは甘い香りがした。

「ザックス!なんでブラックじゃないのよ!」

「俺ブラック飲めねーもん」

「いけしゃあしゃあと言うな!アンタが飲めないからってなんで私のまで同じにするのよ!」

「えー。こっちの方が美味いじゃんか」

「大体、コーヒーにこんな砂糖だのフレッシュだの入れてまで飲むな!コーヒーに失礼じゃない」

「なんでだよ。同じ飲むなら美味く飲んだ方がいいじゃん」

「とにかく、入れなおして。こんなの飲めない」

「ったく、我侭だなぁ」

ザックスは先程と同じ様に給湯室へと再び向かった。



ケース:1

は決まって一番右端のエスプレッソ並に濃い缶コーヒーのボタンを押す。

自分でもたまに「苦い」と思うがそれはまだ思考がちゃんと働いている証拠にもなる。

そして気休めかも知れないが多少は頭が冴える。

カフェインのお陰で眠気も少しは和らぐ。

だからは決まってこのボタンを押すのだ。



ケース:2 ザックス

仕事中のザックスはいたって真面目で膨大な疲労をする場合が多い。

手近な所でエネルギーの補充を求める中で甘い物は必要不可欠だった。

それは食べ物よりも飲み物の方が好ましい。

したがってザックスはいつも一番甘い缶コーヒーのボタンを押す。

結局は全部飲みきる前に味に飽きてしまい、傍にいる誰かに渡してしまうのだが。

けれど一番楽な方法がこれである。

だからザックスは決まってこのボタンを押すのだ。



desire の相違











その衝撃は突然襲いかかった。

エレベーターに乗ったは両手が塞がっていた。

辛うじて動く指で目的の階のボタンを押し、自動的に閉まるドアを特に意識もせず眺めていた。

見えているようで見えていない日常的な動作。

残り数十センチ、という所。

ザックスと目が合った。

「あー、ちょい待った」

閉まりかけたドアに無理やり腕を肩ごと押し込んだ為バウンドしてドアがまた開く。

「なんだよ、開ボタン押してくれてもいいだ」

ろ、と言葉は続かなかった。

「どーしたんだよ、その荷物」

「かーなり昔の魔光炉の報告書」

分厚くファイリングされた物をは五冊抱えていた。

「で、どーすんの?それ」

「なんでも、新しい武器開発やら何やらで色々と忙しいみたいで書類整理を回されただけよ。何するかまでは聞いてないわ」

「ふーん」

カチカチ、と階数が増していく。

「なぁ、それちょっと貸して」

「え、どれ?」

「それ全部。重たいだろ?持って行ってやるよ」

「これぐらいなら平気。それより呼び出されたんだったら寄り道してないで真っ直ぐ行きなさいよ」

「うーん、俺仕事も大事だけど目の前の事の方がより大事つーか」

「・・・・・なにそれ」

「まぁつまりこういう事」

そして軽々とファイルは奪い取られた。

計った様にエレベーターは到着し、ザックスはそのまま先に降りる。

「おい、何してんだ?置いてくぞ」

瞬きしてその背中を見ていたは閉まりかけたドアに気付き慌てて箱を降りる。

机の上に置かれたファイルを睨んではボヤいた。

「なんか、イマイチ意味が分からないんだけど」

「なんで」

「ザックスの言葉の意味をどこまで受け止めればいいのかが」

「ならこれは?」

ザックスはの肩に手を置き頬に軽くキスをした。


「まぁつまりこういう事」



Priorityの差










大きな会社だと会わない日は全くと言っていい程、会えない。

ソルジャーが忙しくなれば自然と雑務も忙しくなる。

なにせソルジャーが調査したデータを纏めるのがの仕事だ。

一緒に暮らすでもなく。

ただ俗に言う『お付き合い』を楽しんでいる。

どちらも遊びではないが、仕事を疎かにしたりはしない。


「はぁ」

「溜息ばっかり吐くと幸せが逃げるぞ、と」

差し出されたのは普段は飲まないジュース缶。

「・・・・・レノが来たって事はタークスの仕事分増えるのね」

「そゆこと」

次に差し出されたのはCDロム。

「データ整理よろしく」

「ワザワザどうも」

レノは毎回自分の仕事分だけは自分で持ってくる。

変な所で律儀な男だ。

差し入れのジュースを飲みはまた仕事に励む。

寝泊りできる会社の為忙しい時は家に帰る必要がない。

けれど人間限界がある。

もう三日も外に出ていない。

「・・・・・空気吸いに行こう」

独り言のつもりだったのに「いってらっしゃい」と同僚が声をかけてくれたが同僚もまた画面に釘付け。

はドアを開け廊下に出ると背中でドアを閉める様にもたれかかった。

「あ!!」

そのまま眉間をマッサージしているとザックスの声が聞こえた。

「よかった、今時間ある?」

一瞬幻聴と幻覚かと思ったが捕まれた手の感覚で本物だと思った。

「久し振りね」

「ついさっき戻ったんだよ。・・・・・・ちょっと来い来い」

人目を気にするようにザックスは辺りを見渡しを引っ張り移動するのは非常階段。

ご丁寧にしっかりと鍵までかけた。

「・・・・・こんな所に連れ込んで何する気よ」

「うーん。言ったらしてくれるワケ?」

悪びれずそう返すザックスの腕を払いのけてはその場から出ようと背中を向けるが簡単に後ろから抱きしめられる。

「私、仕事中なんだけど」

「うん、俺も」

の肩口に頭を埋めるザックスにもたれる様には少し力を抜く。

「・・・・・私だって会いたかったわよ」

「もうちょっとだけこうしててもいいだろ?」

「一分だけね」

「はぁ?」

ザックスが離れた。

「あ、もういいの?」

「いいワケないじゃん」

そう言うと今度は正面からを抱きしめた。

「・・・・・なぁ」

「ん?」

「キスしていい?」

「・・・・・仕事中だってば」

「キスだけだから」

「・・・・・わかったわよ。キスだけね」

少し離れてザックスはの額に自分の額をくっつける。


は目を伏せているので睫が見えた。


両手は頬に触れ、ゆっくりとキスをした。


本当はこのまま仕事なんて投げ出して攫い出してずっと抱きしめて。


触れるだけのキスなのにきつく目を閉じた。


そしてまた額を合わせる。


「・・・・・もう行かなきゃ」


「もう一回」


今度は深く。


キスをする。



えきぞちっくらんでぶー





11-02.2007