目の前に広がるモノは『選択』


右に曲がれば部室。

左に曲がれば帰宅。


「今日こそは左に・・・・」

授業終了後、は大勢の生徒が家路や部活に行きかう中仁王立ちで下駄箱前にいた。

「おぃ、さっさと歩け」

「ぎゃ!」

後ろから膝で押されは前につんのめる。

「いきなり何するのよ!!」

「通行の邪魔だろ、突っ立てんじゃねーよ」

跡部はの腕を掴むとそのまま右折する。

「あ、あたし今日部活出ないっ!」

両足に力を入れては踏ん張るがそのままズルズルと引き摺られ部室へと連れて行かれた。


「跡部のバカー」

「そういう台詞は俺様に一度でもテストで勝ってから言いやがれ」

ホラよ、と言われ部室に放り込まれ、は固まる。

「結局いつも部活出てんだからいい加減素直に来い。無駄手間かけさせるな」

ロッカーを開ける跡部をは渋々椅子に座って眺める。

「・・・・跡部のせいじゃん」

「あぁ?」

寝言は寝て言え、と言わんばかりに着替えの手を止めて跡部は振り返った。

「たかがキスぐらいでグタグタ言ってんじゃねぇよ」

「く、口に出して言わないでよ、バカ!」

「俺様に向かってバカバカ言うな、阿呆」

「あんたなんてバカ部よ、バカ部で十分よ」

椅子に座りバカバカと吼えるを跡部はロッカーを勢いよく閉めて黙らせる。

音がデクレシェンドで消えていく中、跡部はの椅子の背もたれに手をかけキスをした。



「・・・・お前、部室に来ねぇのってまさかこの事思い出して柄にも無く照れてるからじゃねーよな」

跡部の言葉には心臓が跳ね上がったのがわかった。

「なら、また暫くトラウマになるな、これで」

跡部はの膝に跨りニヤニヤと笑う。

「・・・・・跡部、重い」

「本気で嫌なら逃げてみろよ」

肩に乗せて伸ばされている手での髪を僅かに掴む。


「お前に選ばせてやる」



立ち上がって帰るか

このまま座ったままか。



「そんなの」

立てるわけが無い。

「俺様から逃げるなんて似合わねぇことしてんじゃねーよ」

嬉しそうに跡部はの後頭部を一撫でした。



「・・・・自分ら、何しとんねん」



部室で三度目のキスをした後、忍足がドアを開けた。



チェイス・チョイス











この歳で明確な夢も希望も未来もある方が珍しい。

五年後の自分なんて想像も出来ない。

明日、跡部の横にいるのが自分だと言う保障も無い。

跡部の狙って打ったボールが素人の私にはどこに向かうのは分からないように。

「跡部!」

「んあ?」

「いやー参った参った。ゲームしてたらもうスズメが鳴いてさ」

「また徹夜でゲームかよ」

「愛と正義の為の冒険には犠牲も必要なのだよ、部長」

「もっとマシな言い訳をしろ」

「で、跡部はなんで遅刻?」

「抽選会」

「もっとマシな言い訳しろよー」

「テメェと一緒にすんな」

「そうだ。なら私も跡部のお付で抽選会に行った事にしよう」

「はぁ?ふざけんなよ」

「そうと決まれば跡部より先に先生に会って理由を説明しないと。それダーッシュ!」

「あ、待てこら!」


いつか終わる恋ぐらいは知ってるし、覚悟もしてる。

だからこそ、振り回したいし振り回されたい。

紆余曲折する中で少し重なっただけでも凄いじゃない。

男と女しかいないのに。


、待てって」

「陸上部エースに勝とうなんて大会優勝するより難しいだろー」

同じペースでなんて進めないんだし。

「あ、先生ー。私今日跡部くんの付き添いで遅刻しました」

「ったく」

跡部が明日忘れてしまうような接点でいいから。

「さ、仲良く教室に行こう行こう」

「もう少しおしとやかに出来ねーのかよ、お前は」

一緒にいる時ぐらいは笑ってね。



九十九折り



11-02.2007