ばっさり髪を切るとなぜかよく言われる台詞がある。


「失恋したの?」


そしてこの男は予想通りにこの台詞を吐く。




「勿体無いなー」

校内で一・二を争う長さだった私の黒髪。

「そんな色にする方が勿体無いと思うけど」

「なんでー?オレンジかっこいいじゃん」


ずっとこのオレンジ頭が好きだった。

それこそ入学以来。

同じクラスになったのは三年が初めて。

今まで何度か彼女が出来たり別れたりしたのは知っていたがそれはあくまでも噂の範囲。


「あ、あの子俺の彼女です」

教室の窓から校庭を見ていると前の席の千石が指差した女の子。

一年生の中で一番人気のある女の子。

「もう新入生に手を出したのね」

「違いますー。俺が出されたんですー」


本人から『彼女』の存在を初めて告げられて私は髪を切った。

千石が私を褒める要素の一番大きな部分を占めたのはこの髪だった。


見てると黒髪もいいなぁ、って思うよね」

「今皆染めてるしね」

「そうそう。あっくんと並ぶと白黒で目立つよね!」

「並ばないよ、あんな怖い人の横」

「俺の隣でも目立つよね!」


でも結局私が本当の意味で隣に立つ事はなかった。


「最初見たときすっげぇ髪ツヤツヤーって思った」

「それいつの話?初めて聞いたよ」

「えーと。入学式かな。あの頃も長かったし」


千石の指が私の髪を滑る。

何も残さず指から私の髪が離れる。



私の気持ちと同じ。


何も残さずすり抜ける。

A Japanese beauty









06-07.2006