「さん、大丈夫でした?」 痛々しい包帯姿で登校すると、クラスメイトがワラワラと寄って来た。 「えぇ。まだ通院はしますけど」 ヴァイオリンを優雅に弾いていた指はもう無い。 形こそ残っているが神経的にもうあの音色は出ない、と医者に言われた。 それよりもなによりも。 「ご家族で事故だなんて・・・・」 「なにか力になれることがあったら仰って下さいね」 両親と姉の事故死。 車に同乗していた私はこの通りの大怪我。 刺激に飢えているクラスメイトの滑降の的。 「お気遣い、ありがとうございます」 はやんわりと微笑み、机に座った。 机の中を確認すると二つ折りのメモが入っており 【休んでた分のノートのコピー、机に入れてるから】 と書かれていた。 その下には見事に整理された書類の束。 名前は書いていなかったが送り主であろう馨の席を見る。 待ってました、と言わんばかりに馨は笑顔になった。 入学当初から常陸院双子と双子は目立っていた。 同じA組の双子同士。 目立たないはずが無い。 は光と馨の依存感情は誰よりも理解出来た。 自分も同じだからだ。 そしてまた、姉妹の依存感情を、光と馨は誰よりも理解していた。 特別仲が良かった訳ではないが、四人で遊んだ事もあった。 そんな折。 「今こんなの言うって卑怯だと思ってるけど、僕の事好きだから」 高等部に上がった日の夜、馨から電話を受けた。 「・・・・あたしも、馨が好きだよ。だから馨には言っておくね」 自分が今から言う言葉がどれ程残酷か知っている。 けれど、「好きだ」といった馨だからこそ嘘や隠し事はしたくない。 「あたし、光が好きなの」
10-08.2006 ⇒ |