「試合、ねぇ」

「そう。俺らの試合まだ見た事ないだろ?」

職員室に向かったを平はバレないように追いかけでてくるまで律儀に待っていた。

そして用事を終えたが出てくるなり話題を振る。


「パス」

「なんで」

「だって平達が勝つのわかってるし」

「当然」

「ギャラリーも多そうだし」

「あー、万里出るからな」

「だからパス」

「わかった。じゃあ日曜十一時からだから」

「・・・・天野くん、あたしの話聞いてないよね。この耳は飾り?」

「痛い痛い痛い!」

「それともウサ耳とかネコ耳とかが付いててやっぱりこの耳は飾り?」

「いーたーいー!」

両手で平の両耳を思いっきり引っ張り終え、今度はその両頬を手で挟む。

「最近お前ら変じゃん」

「お子ちゃまは黙らっしゃい」

「万里、いっつもの事探してんだぞ」

「無駄な努力は止めて試合に集中しろと伝えて」

「大体なんで急に他人行儀みたいになったんだよ」

「それ以上言うとチューするよ、平」

「・・・・と、とにかく日曜十一時からだからな、絶対来いよ!」

走り去った平の背中は虐められたせいで泣いていた。


「万里も、平と同じままだったらよかったのに」



誰に言うでも無くことばが落ちた。

涙の代わりにポタリポツリ。

本当は毎回試合は見に行っていた。

練習ですら見ているのだ。

見ない訳が無い。

けれどその度その瞬間にの中の万里の記憶は新しい万里に塗り替えられ構成されてしまう。

ときめく感情をもうコントロール出来なくなる。

あの日あの時、の前で笑っていた万里はもう二度と戻らない。


嗚呼、この恋実るべからず。 3









11-08.2006