「と、言う訳なの」


喫茶店でテーブルを挟んで向かい合せ。

は食後のコーヒーを飲みながら山崎に一連の流れを説明した。

呉服屋で今までは販売をしていたがこの度仕事の腕と人柄を買われ初めて買い付けに同行を言われたらしい。


「良い事だけど。え、何日間って?」

「一週間ぐらいかな」

「長いね」

「良い生地は地方まで出ないと駄目らしくて」


山崎の心臓は内心物凄い速さで鼓動を刻んでいた。

が、それを悟られまいと必死に面の皮を取り繕う。


「でも退の仕事に比べたら短いと思うよ?」

観察型の仕事柄、山崎はふいに姿を消す。

潜入捜査は並々ならぬ時間を浪費する事が多い。

それこそ連絡も無しに十日、などざらである。


「ついて来たら駄目だからね」


その言葉に山崎は喉を鳴らした。

「顔に書いてある。心配だって」

ふいに(って観察向きかも)と言う考えが 頭を過ぎったので慌てて首を振る。

「心配は、そりゃ心配だよ」

「戻ってきたら連絡するね」




それから九日経ってもからの連絡は無かった。

この日、山崎は近藤の使いで市内に出ていた。

これ幸い、とのいる呉服屋を覗く。

が、いない。

店自体は営業しているし、一緒に買い付けに行った女主人の姿も無い。

向かいの甘味屋で団子を食べながら店を見る。

考えたくないが思いついた思考が頭から離れない。

モグモグと機械的に団子を食べ続け屯所へと足を向けた。


漠然とした不安。

(いつも、こんな思いしてたのかな)

不覚にも涙が出そうだった。

不安というより、恐怖に近い。

空を見上げて目を閉じる。



いい加減転職しようかな。









01.09-2006